踏切のこちら側

 何本もの電車が、目の前を通り過ぎていく。そのつもりで踏切に来ているから、寒くはない。傍らのベビーカーには、セーター着て、コート着て、毛布で巻かれて、毛糸の帽子被って、ミトンは外してしまったけど、ゴロンと着ぶくれた子がいる。もともとの体型も丸いしね。

 そして、飽きもせず、カンカンという警報とともに遮断機が降りると興奮して叫ぶ。ガタンゴトンと電車がやってくると、わざわざお母さんに教えてくれる。その全てが終わると、次はまだ来ないのかと抗議の声を上げる。これを繰り返す。上下線とも約5分間隔の電車が、合計で5、6本通り過ぎて行った。

 40代くらいの夫婦が通りがかりに、こちらを見て笑った。小奇麗な身なりで、夫婦仲良さそうで、お子さんはいないのかなと勝手に想像した。それか、もう大きくなったのか。私も、3年ほど前までは、あちら側の人間だった。踏切で延々電車を見るなんてなかったし、そんな親子を見かけたら、微笑ましく笑ったかもしれない。

 ああ、こちら側に来れたんだなと思った。たっちゃんが、私をこちら側に連れてきてくれた。あちら側の時、私は、何をしたらいいか分からなかった。今は忙しい。たくさん笑う。

 いつかまた、踏切のあちら側に戻るだろう。2歳のたっちゃんが灯した私の心を、大切に持っていたい。