よく歌い、よく笑う。

2015年10月に生まれた突然変異体(ダウン症)ニャタは育っています

言葉を鳴らす

あなたの何を、許せばいいの?

 流れる歌声が染み込んできた。脳みそに。

「あなたって、あの人しかいないよね」と思う。

「あなたを許すじゃなくて、何をって、確かに」と初めて気づく。

確かに。分からない。

 

今日の一冊。

村上靖彦「摘便とお花見: 看護の語りの現象学 (シリーズケアをひらく) 」。

4人の看護師さんへのインタビューが、面白い。

摘便とお花見: 看護の語りの現象学 (シリーズ ケアをひらく)

  障害のある妹と育つという体験や、小児がん病棟の看護師という体験。圧倒的な現実と、繊細な心情。インタビューを成功させるにはインタビュアーの腕が必要だし、文字起こししたものを切り取って見せる能力によるところも大きいから、それは著者の功績だと思う。 
 一方で、インタビューを現象学的に扱ったという、著者の記述は見劣りがした。インタビュー内容を説明するような言葉のセンスが、インタビュー自体に比して物足りなかった。また、哲学的言説を引き合いに出しているが、それも看護師さんたちが語るひりひりするリアルに比べて、上滑り感がある。
 著者は高名だから、この方法論としては偉業を成している本なのかもしれないけど。看護師さんたちの体験があまりに心動かされるものであり、そして物語の持つ力は強大であるということが逆説的に示されている本としか、読めなかった。

 

2冊目、広井 良典「ケア学―越境するケアへ (シリーズ ケアをひらく)」。

ケア学―越境するケアへ (シリーズ ケアをひらく)

 この領域の学生や研究者には、良い参考書だと思う。でも、読み物としては面白くない。著者は、多角的にケアの領域を考察し、政策の提案もできる、有名で実力のある学者だ。そしてこの「ケアをひらく」という、著者たちが異口同音に担当の「医学書院の編集者の白石さん」を称えるという人気シリーズで、入魂の一冊を書いたのだと思う。でも、このシリーズの他の本が、現場の生の声を伝えて光っているのに比べると、精彩を欠いているように感じる。

 

みんな同じ孤独が寄り添っている

というのは、良く分からない。でもそれが続く歌詞なんだから、その前の歌詞だって、分かっているのかどうか怪しいものだ。それでも、

裸足で雨の夜を歩くと、昼間照らされ逃げそこなっていた熱が残っていた

って、今の心情でしかない。夜だし、熱は残っているし、昼間照らされて逃げそこなっていたし。照らされたんであって燃えたんじゃないところとか、単に残っていたのでなく逃げそこなったのとか、本当にそう。皆だって、そうだよね?

  音楽とか、物語とか、その力はすごいなあと思う。難しいことも、すっと入ってくる。心から、という体験ができる。

 本を読んで、レビューを書いて、通り道を作っているんだけど。ストーリーが鳴り出せばいいと思う。

 

引用:岡村靖幸「忘らんないよ」

忘らんないよ