実録東京生活

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他人の心の内を知る機会は、意外に少ない

 心の専門家が、当事者として語る。しかも、飾らないお人柄で自分語りにも癖がなく、読みやすい。夏苅郁子「心病む母が遺してくれたもの:精神科医の回復への道のり」。

 

心病む母が遺してくれたもの: 精神科医の回復への道のり

心病む母が遺してくれたもの: 精神科医の回復への道のり

 

 

 統合失調症は、誰にとっても身近な病気だ。有病率を考えれば、そして社会から排除しなければ、患者家族でない誰だって、友人知人に心当たりがあるはずだ。だから、ある一人の統合失調症患者の世界を手に取るように知れる本書は、広く勧められる。
 惜しむべくは、せっかく精神科医なのに、統合失調症の病理だとか社会的サポートの必要性だとかに、ほとんど触れていないことだ。あくまで、精神科医を職業とする一個人の記録になっている。(医者として患者に対する時の心構えは書いてあるにしても、それを活かせる読者は少数だし。)著者にそのような志向が無いのなら、対談を載せて触れてもいい、解説を付けてもいい、ただの「珍しい体験談」にならない編集が望まれた。
 最後には幸せな家庭を築かれて、読後感も良く、本を閉じるとともに旅路を同行したような達成感を得られた。

 

 そして続編、「もうひとつの「心病む母が遺してくれたもの」」。

 

もうひとつの「心病む母が遺してくれたもの」

もうひとつの「心病む母が遺してくれたもの」

 

  著者が娘として経験した心の旅路と、その裁判が世間を騒がせた永山則夫を巡るエピソードとが、織り交ぜられている。
 まず、著者の話を理解するには、前作を読んでおくことが必須である。そして、永山則夫しかり、著者自身のエピソードにしても、この本における必然性は内容的にも構成的にもはっきりはしない。
 しかし、著者にとっての必然は明らかである。この本を成立させているのは、著者のストレートでピュアな思いであり、それが読者の胸を打つ。
 全ての子どもに、愛され守られる経験を。あるべきものは親の苦労ではなく、子どもにとって必要な保護なのだ。統合失調症は一つのキーワードに過ぎず、この本は普遍性を持っている。