朝の着替えをバアバが選んでいた。私はニャタの顔を拭くか何かしていた。
「落ちた」
?!!!!!!???!!!
い、い、い、いまのニャタの声だよね?!男の子の声だったよね???
凍る私。
5秒後くらいにバアバが作り笑顔をニャタに向けて、「お…ちた、ね…」
はじめに普通に戻ったのはニャタで、「べばべばべば」と言った。私も気を取り直して、「バアバが服を落としたのかな?っていうか、ニャタが『落ちた』って言ったよね?」と、やっと声が出た。バアバも落ち着きを装いながら、「言ったね。普通に言ったね」と。
ニャタは普通にしゃべれない子だ。いつも、落下のことは手をひらひらさせながら「べばべばべば」と表現する。しゃべれる言葉も、「ぼーくっ(僕)」「さんっさーい(三歳)」みたいに独特のようやっとさがある。それが、今朝のあれは…。
21トリソミーの言語障害には、失構音anarthria(=発語失行)があると読んだことがある。だけど、日常的に感じるニャタの発達性失語は、運動性失語で、不明瞭な発音はほぼ一定しているので構音障害のようだ。高口蓋や狭口蓋なんだろうなという口の中の見た目もあって、舌の筋力低下と併せて、発音しにくそうだなとも思っていたし。
きれいにはっきり、しゃべれるんだね。ニャタの口で、ニャタの筋力で。不思議。普段は出てこないこと、それにひょんなことですらっと出てくること。
あれは夢か幻かという感じだけど、夜になってニャタが寝た後、バアバに確認したら共通認識だった。でもバアバは、「ニャタの頭の中にはちゃんとあるのねーいつか出てくるようになるわよ」と鷹揚だった。いや、不思議じゃね?