よく歌い、よく笑う。

2015年10月に生まれた突然変異体(ダウン症)ニャタは育っています

ニャタを抱えて家を出た日のこと

 育児と仕事で疲れ切ったとき、別れた元夫のことが頭に浮かぶとき、もともと相性が悪いのに頼っている母と喧嘩したとき。小さな赤ちゃんのニャタを抱いて、大きな荷物を抱えて、家を出た日のことを思い出す。

 とても大きな出来事で、たった2年くらい前のことなのに、それが朝だったのか夕だったのか、思い出せない。元夫との生活に絶望し、今夜一晩ニャタの命を守り切れるか自信が持てなくなり、母の住む部屋を目指した。ニャタの着替えやミルクグッズやメルシーポットや母子手帳など、生まれて一年の間にそこそこ増えてきたニャタの持ち物をほとんど全部、特大のカバンに詰め込んで。私の通勤バッグと2セットくらいの着替えとノートパソコンと、最低限の自分の物もまとめて。元夫は職場にいるはずで、ニャタはまだしゃべらず、私は無言でドアの鍵を閉めた。失うもののことは考えないようにして、ニャタと生きていくことだけを考えるようにして。

 母の部屋には無事迎え入れられることができた。どんな会話があったか忘れたけど、ほとんど話さないうちに、察して受け入れてくれた。ニャタが母に抱かれて、自分が今だけ床に倒れても良いんだと思った時の安心感と言ったら! 本当に嬉しく、正しい判断ができて良かったと思った。

 あの時の気持ちは自分の中にすっかり根付いて、日々、私を突き動かしてくれる。いつか着るかもしれない服とか全然捨てられなかったのに、さっぱりと片づけられるようになった。あの時こうしていれば、とか後悔しなくなった。ここにニャタがいることを心から感謝し、だから何が無くてもあっても幸せが感じられて、今日から明日へ続いていく実感がある。ニャタに対しても自信を持てる。私がお母さんだよ。